【第5回】素材選びの苦労と試作回数
~「妥協なき素材選び&試作数十回以上! 新作フレーバーの“台所裏”に迫る」~
こんにちは、焼き菓子Takaです。
前回は、新作商品の「最初のアイデア”の立て方」をご紹介しました。季節感やトレンド、そして「どんなシーンで食べてもらいたいか」を想像しながら、フィナンシェやクッキーの新しい味を発想していく流れをお話ししたと思います。
今回のテーマは、「素材選びの苦労と試作回数」。実は、どんなにアイデアが素晴らしくても、素材次第でまったく違う味に仕上がってしまうのが焼き菓子の怖いところ。そして、それこそが焼き菓子作りのいちばんの醍醐味でもあるのです。ここでは、「なぜこれほどまでに素材を厳選し、試作を繰り返す必要があるのか?」を、掘り下げたいと思います。
1. 素材がもたらす“1%の違い”
焼き菓子は、たった1%の配合の違いでまったく別物の味になることがあります。たとえばクッキーなら、バターが50gと51gでは仕上がりの食感が変わったり、甘さの感じ方が微妙に違ってきたりする。フィナンシェなら、卵白の量が1~2g変わるだけで、しっとり感が大幅に増減することもあるのです。
そもそも焼き菓子は、生地を混ぜ合わせてオーブンで焼くため、「やり直しがきかない」性質があります。一度オーブンに入れて焼いてみて、「あ、これ違ったな」と気づけいても、もう取り返しがきません。だからこそ、素材選びや配合のバランスをどれだけ綿密に試作しておけるかが、最終的なクオリティを左右します。
また、前回ご紹介したように、私たちは「どんなシーンで楽しむか」をイメージしながら味の方向性を決めます。しかし、そのイメージを実現するためには、具体的に「このバターならコクが強め」「この小麦粉なら軽い口どけになる」といった知識や経験が欠かせません。つまり、単に「アイデアがある」だけでは不十分で、「アイデアを再現できるだけの素材知識と試作の根気」がなければ、新作商品は形にならないのです。
2. バターの脂肪分と香りへの影響
焼き菓子の味の要といえるのがバターです。とくにフィナンシェは「焦がしバター」の香りが命ともいわれるほど、バターのクオリティが全体の仕上がりを左右します。バターの脂肪分が数%違うだけで、焼き上がりの食感や風味がガラリと変わるため、うちではいくつかの産地・メーカーを取り寄せてテスト焼きすることもしょっちゅう。
また、フィナンシェを作るときに欠かせない焦がしバターの工程も見逃せません。バターを加熱し、乳固形分をほどよく焦がすことで生まれる香ばしい風味がフィナンシェの大きな魅力となります。しかし、焦がしすぎると苦味が出てしまう。焦がしが足りないとパンチが足りない。ほんの数秒の加熱時間の誤差が仕上がりに響くため、職人技を要する繊細な作業なのです。
3. 小麦粉で決まる食感の幅
クッキーやフィナンシェで使う小麦粉も、じつは非常に重要です。小麦粉には、たんぱく質の含有量が多い「強力粉」、中程度の「中力粉」、少ない「薄力粉」などの種類がありますが、それだけでなく産地によっても性質は異なります。小麦が育つ気候や土壌が違えば、グルテンの形成具合や、粉そのものの風味にも差が出るのです。
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クッキー
サクサクで軽い食感を狙いたいなら薄力粉を中心に選ぶことが多いですが、あえて中力粉を混ぜて少し噛みごたえを出すレシピもあります。バターと合わせるときの混ぜ方や生地の寝かせ時間、焼き加減によっても最終的な食感が変わるため、小麦粉の特性をしっかり理解しておかなければなりません。 -
フィナンシェ
基本的には薄力粉を使うことが多いですが、しっとり感を強めたいときはアーモンドプードルの配合を増やすなど、粉以外の要素も絡んできます。ただし、アーモンドプードルを増やすとボリューム感に影響し、焼き上がりがやや重たくなる可能性も。そこで小麦粉自体を少し変えてみるなど、微妙なさじ加減がものを言います。
このように、小麦粉だけでも何種類も取り寄せて比較試作を行うことが当たり前になっているのが、焼き菓子Takaの日常風景。それは、ときに大変な作業ですが、そこでしか得られない発見もたくさんあるのです。
4. フィナンシェとクッキー:それぞれの素材選びのポイント
焼き菓子Takaのフィナンシェとクッキーでは、素材選びのポイントは両者でやや異なります。
フィナンシェ
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バターの質が最重要
焦がしバターの香りが味の決め手となります。 -
アーモンドプードルの比率
フィナンシェ特有のしっとり感とナッツのコクを生むために欠かせない。産地や挽き方で香りや食感が変わる。 -
卵白の扱い
卵白の泡立て具合を少し変えるだけで口溶けが変わるため、作業工程ごとに細かく温度やタイミングを計測。
クッキー
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小麦粉の配合
サクッと系か、ほろほろ系か、あるいはザクザク系か。求める食感によって使う粉や加水量が変わる。 -
バター
バターを使う場合はコクと香りが強まるが、溶けやすく生地が扱いにくい。 -
アレンジ素材
チョコチップやドライフルーツ、ナッツ、スパイスなどとの相性を考慮。混ぜるタイミングや量の加減で完成度が変わる。
5. 数十回以上の試作が当たり前?
こうして素材ごとの特徴を把握しつつ、いざ試作! となったときには、少なくとも10回以上は焼いてみることも珍しくありません。配合を1%変えては、焼き時間を1分伸ばしてみたり、温度を5℃下げてみたり――エンドレスに続く地道な作業です。
- 「もうちょっと甘みを抑えて、素材の風味を前面に出したい」
- 「バターのコクがすごく良いけど、今度は塩味をもう少し立たせてみたい」
- 「焼き色が薄いから香ばしさが足りないかも」
これらの意見をまとめて再度試作し、また意見を集め、さらに修正を加える――この繰り返しです。お菓子作りは一見華やかに見えますが、実際にはこうした地道な検証作業が8~9割を占めているかもしれません。それでも、新作が完成した瞬間は、その苦労が一気に報われる格別の瞬間なのです。
6. 試作で出会う「想外のハーモニー」
試作を何度も重ねる中で、まれに「予想外のハーモニー」に出会うこともあります。たとえば「柑橘系とナッツ系を組み合わせると意外に合うのでは?」と試してみたら、想像以上に口当たりがよく、特有の苦味と甘酸っぱさが絶妙なバランスで溶け合う――そんな発見があると、一同で「これは面白い!」「新しい定番になるかも!」と盛り上がるのです。
また、クッキー生地にスパイスを混ぜてみたら、単なる香りづけではなく、甘さを引き締める役割を果たし、結果的に大人向けの風味に仕上がることもあれば、逆に「これはスパイスを入れすぎると子どもが食べづらいかも」と気づかされるケースもあります。こうした試行錯誤の過程が、新たな商品誕生のカギを握るのです。
7. 焼き色・温度管理の奥深さ
素材の選定や配合だけでなく、焼き色やオーブンの温度管理もまた奥が深い要素です。たとえば、同じレシピでもオーブンのメーカーや型の形状によって焼きムラが変わるため、どこに生地を置くか、何段で焼くか、対流式かコンベクション式かなど、細かくチェックしなければなりません。
クッキーの場合、ほんの1~2分焼き時間を伸ばすだけで焦げ感が出ることもありますが、あえて少し焦がすことで香りを高める手法もあります。フィナンシェなら、上部がほんのり焦げるぐらい焼き込むと“カリッと”した食感が際立って、それでいて中がしっとり仕上がる場合も。こうした焼き加減の違いも含めて、最適解を見つけるには多くの焼き比べが必要です。
8. 妥協なき素材選びが生む新作へのこだわり
こうして、素材選びから焼き加減まで一切妥協せずに追求することで、焼き菓子Takaの新作フレーバーが生まれます。前回でお話ししたように、まず「どんなシーンで食べてもらいたいか」を想像しながらアイデアを膨らませ、それを具体的に形にする段階で、ここまで多くの試作と検証を積み重ねているのです。
中には、「これなら絶対に売れそう!」と思っていても、いざ試作してみると想像以上に難しく、何度焼いても納得のいく仕上がりにならないケースもあります。そんなときにはあえてその企画を一時保留にして、寝かせておくことも。数か月後に再びアプローチしてみたら、素材のロットが変わったり、新たな技術を身につけたおかげで問題が解決したり、意外なブレイクスルーが起こることもあるからです。
9. 次回予告:お客様の声をどう活かすか
さて、ここまで「素材選びの苦労と試作回数」について、かなり深掘りしてきました。アイデアだけでなく、具体的な材料(フルーツ、バター、小麦粉)や焼成温度、焼き時間など、あらゆる要素を妥協なく検証することで、ようやく新作フレーバーが「満足のいく」形に近づいていきます。
しかし、最終的に完成した商品は、本当にお客様に気に入っていただけるのでしょうか? いくら作り手が「これは最高!」と思っても、実際に召し上がった方がどう感じるかはまた別の話。そこで重要になるのが、「お客様の声」です。焼き菓子Takaでは、お客様からのご意見・ご感想を積極的に取り入れ、新作商品に反映させる取り組みを行っています。
次回は、「お客様の声をどう活かすか」をテーマにお話しする予定です。実際にいただいたコメントやアンケートから、新たな商品が生まれるケースも少なくありません。お客様からのリアルな声が、開発チームにとってどんな“宝の山”となるのか――その秘密に迫っていきます。どうぞお楽しみに!
まとめ
こうした地道な作業があってこそ、焼き菓子Takaの新作フレーバーは「満足のいく仕上がり」へとたどり着きます。次回は、「お客様の声をどう活かすか」。作り手だけでなく、召し上がる方々の感想やアイデアが新商品にどのように反映されていくのか、その舞台裏をご紹介します。ぜひ次回もお付き合いくださいね。
それでは、ここまで読んでいただきありがとうございました。またお会いしましょう!
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