【第4回】どうやって新しい味を考えるのか ~「新フレーバーのはじまりは“シーン想定”から──季節やトレンドを取り入れる秘訣」~
今回から3回にわたって、“新作商品の開発秘話”をお届けしていきます。第1回目のテーマは、「どうやって新しい味を考えるのか」。
焼き菓子Takaでは、フィナンシェやクッキーなどさまざまな焼き菓子を取り扱っていますが、新作を考える際にはまず「どんなシーンで食べてもらいたいか」を想像するところから始まります。たとえば、バターの香りがたっぷり広がるフィナンシェを、朝のコーヒーと合わせてパクッと食べて欲しいのか、それとも夕方のティータイムにゆったり味わって欲しいのか。あるいは、クッキーを子どものおやつにしたいのか、大人の晩酌シーンでお酒と合わせたいのか。そうした「食べるシーン」が変わると、求められる味わいや香り、食感も自然と変わっていくのです。
たとえば夏場なら「汗ばむ季節でも爽やかに食べられる柑橘系」を活かしたフィナンシェをつくったり、逆にクッキーならホロホロと崩れるような軽やかな食感で、レモンの酸味がすっきりと感じられるフレーバーを検討します。冬なら「しっかり濃厚でリッチな気分を味わえるチョコレートやナッツ系」に注目して、深煎りコーヒーや赤ワインと相性のよいコク深いテイストを模索したり。季節感を活かすことで、その季節にしか味わえない特別な焼き菓子が誕生し、食べた方の記憶にも残りやすくなるのです。
■ シーン想定の具体例
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朝食代わりのフィナンシェ
朝は忙しくてゆっくり食事ができない…という方にもサッと食べられるよう、甘さを少し控え、バターのコクを強めにして腹持ちを良くする。 -
子どものおやつにしたいクッキー
小さなお子さんは甘さがしっかり感じられるお菓子を好む一方、保護者の方からは「甘すぎるのはちょっと…」という声も。そこで、砂糖の種類を工夫したり、やや甘さ控えめにするなど、バランスに気を配っています。 -
お酒とのペアリングを楽しむクッキーやフィナンシェ
最近は、焼き菓子をお酒と合わせる“おつまみスイーツ”が注目されています。そこで、赤ワインやブランデーなどに合うほろ苦いココア生地のフィナンシェ、あるいは香ばしいナッツをたっぷり使ったクッキーを検討します。ナッツの食感と香ばしさは、意外にもお酒と抜群に合うことが多いんです。
このように、「いつ・誰が・どんな気分で食べるか」を想像することで、新商品開発の方向性が自然と見えてきます。
トレンドリサーチと“焼き菓子Takaらしさ”
次に欠かせないのがトレンドリサーチです。SNSやネットニュース、スイーツ専門サイトをこまめにチェックして、「今どんなスイーツが注目されているのか」を探ります。たとえば、ある時期に“塩スイーツ”が流行れば、塩キャラメル系のフィナンシェやクッキーを考案するきっかけになったり、「和の素材」がブームになれば抹茶や黒ゴマ、きなこを使ったレシピを模索することも。
ただし、「トレンドの味」をそのまま取り入れてしまうと、どこかよそで見たようなお菓子になってしまうのも事実。そこで大切なのが、「焼き菓子Takaらしさ”をどこで表現するか」という視点です。たとえば、当店は無添加・保存料不使用にこだわっているため、素材の自然な風味を活かす方法を常に検討します。塩味をきかせるにしても、単に塩を混ぜるだけでなく、バターやココアパウダーなどとの相性を見極め、塩が引き立つ「しっとり感」や「香り」をどう生み出すかに注力するのです。
また、「甘さ×酸味」のバランスひとつをとっても、人によって好みが大きく異なります。SNSで人気になっている「甘酸っぱさがクセになるスイーツ」を参考にしても、「うちはもう少し酸味をマイルドにして食べやすくしよう」「子どもも食べやすいように酸味を抑えて、そのぶん甘さを調整しよう」といった具合に、オリジナリティを加えていくのが“「焼き菓子Taka流」です。
レシピづくりのトライ&エラー
イメージが固まったら、いよいよ実際のレシピづくりに入っていきます。ここでのポイントは、「食感に変化を出す」「アクセントになる食材を合わせる」といったトライ&エラーを重ねること。
たとえばクッキーなら、さくっと軽い食感にするか、ホロホロと口の中でほどける食感にするか、それとも米粉を配合するのか。というだけでも大きく印象が変わります。また、チョコを入れるタイミングや大きさ、クッキー生地に混ぜるスパイスの種類や量など、ちょっとした違いが「最後のひとかけら」に至るまで影響を及ぼすんです。
フィナンシェの場合も、バターの焦がし具合から卵白の泡立て加減まで、微妙な工程ひとつで「バターの香りが引き立つかどうか」や「口溶けの良さ」が変わります。柑橘系フレーバーをプラスするなら、皮をすりおろした状態で入れるのか、それともピールを刻んで食感も残すのか。こうした細部をこだわることで、独特の風味と食感を生み出しているのです。
もちろん、失敗や思わぬ発見もあります。たとえば「スパイスを入れすぎて苦味が強くなりすぎた」とか、「ナッツの量を増やしたら生地がまとまりにくくなったけれど、新しい食感が生まれた」など。そういった経験を蓄積していくことで、「ここはもう少し伸ばしたほうがいい」「ここは抑えめにしたほうがいい」というポイントが見えてきます。
食感・見た目・香りのバランス
さらに、レシピづくりでは「食感・見た目・香り」のバランスも重要視しています。
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食感: クッキーなら「サクッと・ホロッと・ザクザクとした噛みごたえ」など、さまざまな方向性が考えられます。フィナンシェなら「表面は軽くカリッと、中はしっとり」で口溶けを良くしたいのか、それとも焼き目をしっかりつけて香ばしいタイプにしたいのか。
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見た目: 焼き色やトッピングのビジュアル、パッケージに入ったときの印象など。「商品写真をSNSにアップしてもらうときに、おいしそうに見えるかどうか」という点も今の時代は大切ですよね。クッキーなら、プレーン生地とココア生地をマーブル状に組み合わせたり、フィナンシェなら断面を少し美しく見せたりする工夫も考えます。
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香り: 焼き菓子は、オーブンから漂う香ばしい香りが魅力の一つ。チョコレートを使うならカカオの豊かな香りがきちんと活きるようにする、フルーツを使うならフレッシュな香りを損なわないよう熱の加え方を工夫する、など。バターを焦がしすぎると苦味が出てしまうので、その塩梅も難しいところです。
これらを総合的に考慮したときに、「あ、これはイメージしていたシーンにぴったり合う!」となった瞬間が、私たちの作り手としての最高の喜びになります。
次回予告:素材選びの苦労と試作回数
今回は、「どんなふうに新しい味を考え始めるのか」という開発初期段階のお話を中心にお伝えしました。シーン想定やトレンドリサーチ、そしてトライ&エラーを繰り返すことで、焼き菓子Takaならではの新作商品の「種」が生まれていきます。
しかし、その「種」を本当に芽吹かせるためには、実際に「どんなバターや小麦粉、どんな果物を選ぶのか」という素材選びの段階でさらなる苦労が待ち受けています。季節や仕入れ先によって風味が変わることもありますし、試作のたびに違う産地・種類を比べることも珍しくありません。さらに、配合を1%変えるだけで仕上がりがガラッと変わるので、1つの商品につき何十回以上試作することも…。
そうした背景を踏まえ、次回は「素材選びの苦労と試作回数の多さ」について、より詳しくお話しします。なぜここまで細かい作業が必要なのか、そしてどうやって“運命の一口”にたどり着くのか。そんな舞台裏を覗いてみたい方は、ぜひお楽しみに!
■ まとめ
- 焼き菓子Takaの新作フレーバー開発は、まずシーンや季節、トレンドを想定するところから始まる。
- “焼き菓子Takaらしさ”を保ちながら、トレンドを取り入れるためにオリジナリティを加えるのが重要。
- クッキーやフィナンシェのレシピは、食感・見た目・香りなど多角的にトライ&エラーを繰り返すことで完成度を高める。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。次回もぜひお付き合いください!
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